役員・従業員へ事業を承継する場合
親族以外の者に事業の承継を行う場合に多いのが、役員・従業員からの抜擢人事です。
また、最近では社外から有能な人物を招聘することも多くなっています。いずれの場合も、数名の後継者候補を選定・教育し、そのなかから事業の存続を任せるうえでもっともふさわしく、周囲の賛同を得られる人事を行うことが重要です。
役員・従業員への承継の一般的なメリット・デメリット
メリット | デメリット |
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対策事例~従業員持ち株会に関するケース~
(1)対策概要
- 創業60年の販社(以下A社)
- 安定した利益計上
- 売上約20億円
会長甲(当時79歳)が株式を98%所有しており、甲は現社長乙であるご子息の経営能力を疑問視している。甲としては、どのように株式を承継すべきか悩んでおり、後継者や株式の移動については未決定の状態。甲は現時点で全株式を乙に渡すのは不安に感じている。
そこでHD化を考え、資本関係をクリアにし、株式を承継しやすいように整えておくことに。
対策前:A社@63円(類)、B社@3,560円(類)株価総額約4億円
対策後:A社@0円(純)
(2)株式譲渡
A社は株式収集資金として約5億円の借入を実施。株価下落のタイミングをみて、移動を検討していく。
(3)役員持株会の設置(持株会社の株式の取扱い)
A社を持株会社化。その株式は会長甲が98%を所有しているが、役員持株会と従業員持株会を利用して配当還元価額(低い価額)株式を一部承継させた。甲は、経営能力に不安のある乙に株式を渡すのであれば、会社を本当に引っ張っていける人間が株式を持つ仕組みを作りたいと考え、現在はその人材を見極めている段階。その間はこれまで同様に持株会への株式譲渡を少しずつ進める。
なお、役員持株会の各持分比率については注意が必要。従業員持株会が所有する株式は無議決権株式とした。また甲は、妻は存命であるが妻側の親族には会社に関するものは一切引き継がせたくないと考え、外部役員である丙を最終的な後継者とすることに決めた。丙は、安定した会社運営を行うために自らが中心となって株式を集約していきたいと考えており、持株会以外の残りの株式をすべて譲渡により移動することに決めている。
いずれにせよ、将来的にはすぐに株価が戻ってくる可能性が高いため、株価の低い今のうちに丙へ渡したが、その買取資金は金融機関から借り入れを受けた。その際は、返済スケジュールや返済資金計画などを綿密に策定。また甲の所有する株式のうち一部について、黄金株や”役員を退任した場合には会社に株式を返還して退職する”という取得条項付株式などの種類株式を発行することも検討している。
(4)その他従業員持株会の特徴
効果
- オーナーの株式財産を圧縮することが可能
- 持株会規約にて将来の分散リスクを回避
- 福利厚生的要素
留意点
- 議決権をなくしておくこと(配当優先無議決権株式)
- 株式の種類が変更になるため定款変更が必要
- 無議決権であっても帳簿閲覧権、役員解任請求権(3%)や株主代表訴訟権(1株)などは有している一連の手続関係書類の確認