ご親族様へ事業を承継する場合
日本の中小企業において、親から子へ、あるいはその他の血縁関係のある者に会社を継がせるというのは、もっとも一般的なケースです。
従業員や取引先など内外の関係者からの理解も得やすくスムーズな承継が望める方法ですが、メリットばかりでもありませんので事前にメリットとデメリットを踏まえて対策に入ることが重要でしょう。
親族への承継の一般的なメリット・デメリット
メリット | デメリット |
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対策事例~役員退職金のなどの損金を利用したケース~
(1)対策概要
- 創業80年の商社
- 従業員約50名
- 売上100億円
- 安定した利益計上
甲(当時79歳)、乙(当時77歳)の兄弟からそれぞれ息子A(当時45歳)、B(当時44歳)へ株式の移動を検討。また、2名への役員退職金が合計約6億円あった。
対策前(株価@55,000円)→対策後(株価@8,000円)となり移動を実行。
検討中に株価評価の改正があった(利益0の場合の取り扱い)ため、株価が低下したタイミングで株式の譲渡または贈与により移動を進めた。
(2)役員退職金の支給に関する留意点
- 法人税基本通達9-2-32(分掌変更、報酬激減)の考え方
- 退任時期、業務関与形態(非常勤または退任)、支給額の決定
- 平成16年京都地裁での否認事例あり(実体は常勤であり、主要取引での重要位置を占めていた)
- 経営方針決定には参加しない
- 議事録・会議録・稟議などの確認、従業員や関係者へのヒアリング(事実確認)
- 退職金支給後の活動内容は、大所高所からのアドバイスなどに限定
- 役員退職金規程の作成
- 株主総会の決議などはきちんと記録を残しておく
(3)売却価格の検討
同族関係者以外の方からの買取りや、同族でもかなりの遠縁の方などからの買取りについて、より低い価格(@8,000円)で買い取ることも検討。
これは、差額の贈与税申告をしなければならないが、結果的にそのほうがキャッシュの出が少なくなるため。しかし遠縁とはいえ親戚間であり、価格が変わるのはのちのち問題が生じる可能性があるため、最終的には適正価額で買取りを行った。
(4)その他留意点など
- 乙は株式の移動にかなり手間取った。頭ではわかっていても、実際に会社から身を引かなければならないという事実が受け入れられないような感じであった。
- 過去に会計事務所と甲で、乙の株式について贈与をしていたが、これについて知らないと憤慨。実際は株式移動に関するお尋ねなどが税務署から郵送されており、乙は知っていたのにも関わらず贈与した株式の返還を要求していた時期もあった。